コンサルタントコラム

防火管理者の責任

所属
コンサルティング第三部 安全文化グループ
役職名
主任コンサルタント
執筆者名
小山 和博 Kazuhiro Koyama

2013年12月6日

今年の十月、福岡で発生した有床診療所の火災は、心ならずも十名の方がお亡くなりになるという痛ましい事態となった。この事件に関する報道では、「防火管理者は院長の母親で七十歳と高齢だったことが被害の背景にあるのではないか」と報じられている。

防火管理者とは、多数の人が利用するなど一定の要件に当てはまる施設建物において、火災の未然防止と発生時の被害防止のため、防火管理に係る消防計画を作成し、防火管理上必要な業務を計画的に行う責任者である。防火管理者は、防火管理上必要な知識・技能を有し、かつ防火管理業務を適切に遂行することができる管理的、監督的地位にあることが要件とされている。しかし、実際には一日ないし二日の研修により資格を取得した管理職が消防計画作成の都合から選任されているに留まり、本人には十分な能力がないどころか、自覚さえもないことがある。

ところで、適切な防火管理業務を行わず、火災等により死傷者が出た場合、防火管理者は、刑事民事両面から責任を問われる立場にある。火災により多くの死傷者が出た事例では、その建物のオーナーや防火管理者が業務上過失致死傷罪で逮捕されることは昔から珍しくない。過去の裁判例でいうと禁固一年六月から長い場合で三年、これに執行猶予が二年から三年つくのが通例のようである。また、防火管理者が業務を怠った結果、死傷者が出れば、被害者やご遺族から民事上の請求を受ける立場にある。この金額は事案の性質上あまり明らかになりにくいが、昭和五七年に東京赤坂で発生したホテル火災では、死者三三名、負傷者三四名に対し、総額十三億円の賠償金が支払われたとの記述が判決書にみられる。もちろん、保険が適正に付保されていれば、損害賠償を自ら払う必要はないかもしれないが、損害賠償請求を受けうる立場にあることは間違いない。

このような重い責任を従業員に負わせる割に、企業は安易に防火管理者を選任していないだろうか。「総務部長だから」「担当役員だから」といった充て職の発想で防火管理者を選任したものの、本人の意欲、権限、能力といった諸要素の不足により、防火管理者として十分機能していない状態があるとすれば、それを放置することは危険である。企業としては、適切な従業員を選任し、かつ防災管理業務をその従業員の本来業務に位置付け、確実に実施させるとともに、必要に応じて支援をする必要がある。

来年四月一日から、統括防火防災管理者制度を定めた改正消防法も施行される。この制度は、雑居ビル等の入居者ごとに占有する空間の管理を行う建物については、テナントのしかるべき権限者(消防法上の管理権原者)が協議の上、統括防火管理者(一定以上の規模の建物の場合は統括防災管理者)を選任しなければならないとする制度である。この統括防火(防災)管理者には、各テナントの防火(防災)管理者に対し、指示権が付与されるなどの権限強化が図られている。「権限あるところに責任あり」であり、安易な選任は許されない。

社会から高い信用・信頼を受けているにもかかわらず、実態が伴わない場合、そのことが明るみに出れば、その企業は信用・信頼が失墜する危機に直面することになる(レピュテーショナル・リスク)。各社において、今一度確認されることをお勧めしたい。

以上

(2013年12月5日 三友新聞掲載記事を転載)

小山 和博 Kazuhiro Koyama
氏名
小山 和博 Kazuhiro Koyama
役職
コンサルティング第三部 安全文化グループ 主任コンサルタント
専門領域
安全とリスク対策にフォーカスした組織文化改革、事業継続、感染症対策