コンサルタントコラム

中国における事故削減の難しさ

所属
インターリスク上海
役職名
コンサルティング部 マネージャー
執筆者名
藤田 亮 Ryo Fujita

2012年8月28日

筆者は2012年4月に中国・上海に赴任し、当地で各種リスク・コンサルティングサービスに従事しています。赴任してまだ間もないですが、不安全な行動や状態、それに起因する事故を目にする機会は日本の比ではありません。以下は、筆者が実際に目にした例です。

(事例1) ショベルカーが道路工事中に誤って埋設水道管を破壊。高さ20m程度まで水が噴出し、上海のオフィス街が1平方km程度に渉って水浸しになった(通勤中のバスから目撃)。
(事例2) 上海の目抜き通りで大型トラックが路肩に寄り、歩道の並木の枝を倒しながら停車(反対側の歩道から目撃)。
(事例3) 食堂で配膳係が客の食べ残しのお膳を回収する際、どんどんお膳を積み上げていくが、高く積み上げたお膳が崩れて周囲の客に食べ残しが降りかかる(同じことを2回繰り替えしていた!)。

このほかにも、極めて不安全な行動や状態、それに起因する事故を日常的に目にします。

一般に、事故が発生する場合には、その要因として、必ず不安全な行動や状態(以下、リスクと言い換えます)が存在します。事例1であれば、埋設水道管の位置を確認せずに工事を行うという不安全な行動によって事故が起きた可能性があります。また、事例2では、トラックの荷台の高さを把握せずに安易に路肩に駐車するという不安全な行動、ないしは並木の枝が路上にまで伸びているという不安全な状態によって事故が起きた可能性があります。

このような事故を減らすための第一ステップは、自分の行動や自分の周囲にどのようなリスクが存在するかを認識することです。但し、当然、リスクを認識しただけで事故が減る訳ではなく、第二ステップとして、「リスクへの対応」が必要となります。一方で、リスクへの対応には多かれ少なかれ費用、労力、時間等のコストが必要となります。よって、認識した全てのリスクに対応するのは得策ではなく、リスクを放置した場合に事故に至る可能性が高いと判断されるもの(発生可能性の評価)や、甚大な影響が出ると判断されるもの(影響度の評価)について、優先的に対応を行うのがセオリーと考えられます。

さて、中国に来て筆者が特に強く感じるのが、リスクの捉え方の違いです。特に、リスクが顕在化した場合の影響度の捉え方について、日本とは大きく異なるように感じます。事例3では、お膳が崩れるということを一度経験したにも関わらず、リスクに何の対応もせず同じやり方で積み上げて、周囲のお客さんに再び迷惑を掛けています。日本であれば、お客さんから相当なクレームを受けるでしょうし、食堂の責任者からも厳重な注意を受けるでしょう。さらに、2度も同じ失敗をしたということで職を失う可能性さえありえるかもしれません。日本ではリスクが顕在化したときの影響度は大きいといえます。

しかし、実際には、中国のこの食堂でお膳が派手な音を立てて再び崩れたとき、被害を受けたお客さんは汚れた服を自分で拭き取るだけで、配膳係に何か文句を言うわけでもなく、また責任者等を呼びつけることもありませんでした。おそらく、配膳係は、事故を起こしても大きな影響は周囲に与えないだろうという前提のもと、自分にとっての業務効率性のみを重視して不安全な行動を続けたのです。そしてお客さんもまた、起きてしまった事故については、「仕方がないこと」だと捉えて、事故が発生してしまうことを半ば諦めているかのようでした。

このように、事故がおこっても仕方がないことだ、とか、事故の原因や責任を問わないという共通の認識が社会にあるかぎり、事故を減らしていくことは非常に難しいと考えられます。今後、事故を減らしていくためには、その事故を仕方のないことと捉えず、事故の原因を究明し、そのうえで責任の所在を明確にしていくという社会的な認識を更に醸成していくことが、今後の中国社会における一つの重要なテーマのように思います。

以上

(2012年8月23日 三友新聞掲載記事を転載)

藤田 亮 Ryo Fujita
氏名
藤田 亮 Ryo Fujita
役職
インターリスク上海 コンサルティング部 マネージャー
専門領域
中国進出企業のリスクマネジメント、事業継続マネジメント等