コンサルタントコラム

タイの洪水に見る自然災害リスクの実態と備え

所属
インターリスク・アジア
役職名
ディレクター
執筆者名
中本 専 Atsushi Nakamoto

2012年4月20日

昨年10月、タイの工業団地が次々と浸水し、日本でもテレビに映し出されていたのは記憶に新しいところです。3月末にようやく大手自動車メーカーが生産再開にこぎつけ、タイの首相も出席した式典も報道されました。

東日本大震災後に世界規模で見直されていたはずのサプライチェーンが、半年後に再度大きな影響を受けました。想定外の地震・津波に続き、想定外の洪水被害を受け、大自然の脅威を目の当たりにしたと共に、あらゆる事態を想定して日頃から着実に備えるという防災管理の観点より、2つの災害には共通点があるようにも思えます。

さて、タイの洪水では日系企業が数多く入居する工業団地を中心に甚大な被害を受けました。JETROによると7工業団地で804社(内449社が日系)が浸水し、世界銀行によるとタイ国内の被害総額は約3.5兆円、うち工業団地の浸水被害は約1.7兆円と試算されています。また、全国での死者・行方不明者は755人、浸水被害面積も18,000平方キロメートル以上(関東平野を上回る)と発表されています。

洪水はチャオプラヤ川とメコン川の氾濫によるものです。特にチャオプラヤ川はタイ国内の流域面積が約16万平方キロメートル(日本の総面積の約44%に匹敵)、かつ、勾配が非常に緩やかな大河です。例えば、被害が大きかったアユタヤ(海抜4-5m)からバンコク(1-2m)まで約100kmの距離を高低差2-3mでゆったりと流れています。バンコクは出張で良く訪れますが、見渡す限り山も丘もない平坦な低地にビルの合間を縫って運河が張り巡らされているイメージがあります。

それでは、なぜ昨年は洪水被害がそこまで拡大したのでしょうか…。以下要因を挙げてみました。

  1. 雨期の長引く大雨(台風が多く月平均降雨量が平年の40-50%増 ⇒ 50年に1回の大雨)
  2. 森林伐採・乱開発による上流の保水能力低下
  3. 上流ダムからの放水のタイミングの遅れ(灌漑用水確保に向け雨期の降水量予測が困難)
  4. 下流、都市部の運河整備の遅れ(政権交代、予算確保の問題)
  5. 運河の堤防を巡る政府と住民との抗争
  6. 地下水の汲み上げ過ぎによる地盤沈下

次の雨期(5~10月)を控え、タイ政府は再発防止への取組を本格化させています。被災工業団地における防水堤等の対策支援を始め、ダム貯水量管理の見直し、バンコク外周堤防 "King's Dike"、運河・グリーンベルト整備による排水・保水能力向上、長期的なダム建設計画も検討されています。何れにしても国家レベルでバランス良くインフラ整備を進めない限り、大雨で溢れた水はどこかに流れ誰かが被害を受けることになります。

被災企業、進出を検討中の企業では、他の工業団地への敷地移転、生産機能の一部移転も選択肢に入っています。私がサーベイで訪問した東部の工業団地の多くは、丘陵に立地し河川の洪水リスクが低いため、洪水後に用地購入の問合せが相次ぎ、中には完売という団地も見られました。

広域的な自然災害リスクには洪水のほか、地震・暴風雨も想定されます。タイは地震が少ないと思われていますが、バンコクを含め地震危険度は低くはありません。北部・西部の国境付近を中心に13の活断層が確認されており、昨年3月のミャンマー東部地震に見られるミャンマーを震源とする大地震を想定し、バンコクが地震可能性地域に追加指定されました。建築基準が強化(一定規模以上のビルにマグニチュード5を想定した耐震性を義務づけ)された2007年以前のビルは倒壊危険があり、特に危険性の高いバンコクのビルは公表されています。暴風雨リスクは、台風が毎年発生しており、1989年には南部のマレー半島側を中心に死者600人以上の被害を受けたように、そのリスクを無視することはできません。

発生を防ぐことができない自然災害は、発生を前提とした日頃からの着実な備えが欠かせません。世界各地で発生する様々な災害に被害・影響を受ける昨今、想定外のあらゆる事態に備え、経営者を始め管理者・現場従業員がそれぞれ意識を持ち、防災対策の維持・向上に向けた取組が必要とされています。

以上

(2012年4月19日 三友新聞掲載記事を転載)

中本 専 Atsushi Nakamoto
氏名
中本 専 Atsushi Nakamoto
役職
インターリスク・アジア ディレクター
専門領域
海外リスクマネジメント