コンサルタントコラム

緊急節電から中長期的省エネへ

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
生物多様性、企業緑地マネジメント、省エネ・節電、環境リスク評価
役職名
コンサルティング第一部 環境グループ コンサルタント
執筆者名
関崎 悠一郎 Yuichiro Sekizaki

2011.9.8

東日本大震災に端を発した「節電の夏」も終盤を迎えた。需給ギャップを埋めるために企業や家庭が一体となって努力したこともあり、当面の危機は乗り越えられたようにみえる。しかしながら原子力発電に対する政策動向などを踏まえると、今後数年間にわたって電力需給が逼迫する可能性が高い。ここでは企業において、中長期的な取り組みを進めるためのポイントを概説したい。

弊社では5月から節電支援サービスを提供しているが、その中で感じるのは、企業における節電対策の計画立案と実施にあたって、その効果を把握することの難しさである。その理由としては、「電力」という目に見えないものに対する取り組みのため、効果が見えにくいということがあるだろう。これまでにサービスを実施した企業の中からも、「取り組みの項目はあげられるが、それぞれの節電効果がわからない」といった声が挙がっている。今後の節電においては、「節電効果の見える化」が重要な要素となってくると考えられる。

一方で、快適な労働環境と節電の両立も重要となる。今夏の節電においては、例えば東京電力・東北電力管内では、5月25日の政府発表から電力使用制限開始の7月1日まで、準備期間が短かった。このため、点灯する照明数の削減や空調の設定温度の変更など、さしあたって指先でできることが、企業における主な取り組みであった。結果として労働環境への影響は大きかったが、緊急事態との認識の中で、その配慮は後回しとなっていた感は否めない。
労働環境に関する基準を守っていても、従業員の快適性を考慮しない場合、労働効率の低下に伴う業績の悪化など、事業活動に思わぬ影響が出ることが考えられる。室温を例にとると、作業効率が最も高くなる25.5度に比べ、多くの企業が設定温度として採用した28度前後では、作業効率が30%近く減少するというデータもある(日本建築学会)。このような運用面だけでの節電対策では、従業員への負担も蓄積され、持続的な取り組みにしていくことは難しい。

今夏の緊急的な節電から中長期的な省エネへと移行するためには、ヒトが我慢する「節電」から、機械に我慢させる「省エネ」に変えていくことが重要である。すなわち、より本格的な設備機器の調整や、場合によっては設備投資を伴う高効率省エネ機器の導入などが検討事項となってくる。これによって、従業員の快適性に配慮した省エネを実施することが可能となる。何にどれだけのコストをかけるかの判断には、今夏の取り組みを振り返り、節電対策を仕分けることが必要である。省エネ項目を絞り込むための方法を5つのステップにまとめると、以下のようになる。

  1. 労働環境への影響を検証する
  2. 今夏の節電取り組みの効果検証を行なう(費用対効果も考慮)
  3. 今後も継続するものとそうでないものを明確化する
  4. 機械設備のチューニングを検討する(冷却水の温度設定やコンプレッサーの吐出圧力調整など)
  5. 更新時期の迫った設備機器の高効率化や新規節電設備の導入を検討する(LED電球や使用電力を把握するデマンドコントローラーの導入)

政府は「当面のエネルギー需給安定策」の中で電力対策の工程表を作成するなど、中長期的な施策にシフトし始めている。今夏の経験を今後の省エネに生かしてPDCAサイクルを回し、持続的な取り組みにしていくことが、今求められている。

以上

(2011年9月1日 三友新聞掲載記事を転載)

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