東南アジア諸国における防災対策
- 所属
- インターリスク・アジア
- 役職名
- ディレクター
- 執筆者名
- 山村 亮 Akira Yamamura
2011年8月3日
今年4月にシンガポールに赴任後、リスクサーベイで東南アジア諸国を回っています。リスクサーベイでは、工場を中心にリスク(火災、自然災害、労災等)の診断・改善提案を行っています。主要都市の郊外には巨大な工業団地が開発・整備され、多くの日系工場が進出しています。どの国も経済発展が目覚しく、一時期は東日本大震災の影響で減産を強いられていた工場もフル生産体制に復活しつつあり、工場の中も活気に満ちています。
その日系企業の海外進出に当たっては、大変なギャップと苦労を乗り越えて海外生産体制を構築されています。私共も日頃工場を回る中、日本とのギャップを常々感じており、その一例を挙げますと以下のとおりです。
- ヒト(教育・指導、意思疎通が難しい):
- 転職が多く雇用が流動的
- 契約社員等の非正規社員が多い
- 日本人従業員と考え方が違う
- 不安全な自力での補修・改造
- モノ(高温多湿の厳しい自然環境の影響):
- 厳しい環境による経年劣化の進行
- 工事/据付/メンテナンス業者の技術レベル
- 社会インフラ:
- 公設消防署の信頼性
- 不安定な電力供給や高い電圧での不具合の発生
- 消防統計の不足
- 慣習:
- 初期消防活動を指示しても行わない
もちろん各国によって消防法令が異なることもありますが、一般的に言えることは、日本と比べて高温多湿の厳しい環境下での建物・設備の劣化が早い、従業員の会社への帰属意識が日本ほど高くはないことです。
ここで、当社データにおいて東南アジア諸国の工場火災と日本の工場火災の出火原因を比較した場合、東南アジアでの大きな特徴といえるのが、出火原因の4割以上を占めるのが電気設備からの出火です。単純に比較はできませんが、この数値は日本の工場火災における出火原因における割合の2倍以上です。
なぜ東南アジアでは電気設備からの出火がこれほど多いのでしょうか?出火原因となった事象をもう少し詳しく見てみますと、以下のとおり分類されます。
【ハードウェア面でのリスク】
- 設備の増設・変更や機械のアップグレードによる過負荷(過電流)
- ケーブルの絶縁破壊・損傷や接続不良による短絡
- 工事・管理の不備・不良による漏電
【ソフトウェア面でのリスク】
- メンテナンスプログラムの不備
- 製造業者の推奨に沿わないメンテナンス
- 互換性のない部品との交換、勝手な改造
- 電子部品・機器の定格以下あるいは定格以上のものとの交換
- その他
- 接続部の緩みや過度な増し締め
- 端子の腐食
- 過負荷端子
【人材面のリスク】
- 従業員の設備に対する知識、経験、トレーニング等の不足
- 設備業者への監督不足
- 定期点検の未実施
日本では当たり前のことが海外では必ずしも当たり前ではなく、現場における危険性の認識も不十分であることが大きな原因と考えられます。電気設備に起因した事故防止に向け、弊社では「電気安全コンサルティング&サーベイ」をご用意しています。電気的なトラブルや事故の前兆現象を把握し、事前に対処することによって事故を予防するのに役立つ内容であり好評を頂いています。
工場を数多く回る中、構内に入ると「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」への取組状況から管理レベルが分かってきます。ちょっとした気の緩みが積み重なって事故につながりますので、5Sの基本ルール遵守は非常に重要です。加えて、事故のない工場で共通しているのが、「定位置管理」「見える化」等への取組です。何れの取組も現場に危険性を認識させること、事故の前兆現象を事前に察知・対処することが可能となり、事故防止のみならず品質向上にも役立つといえます。
日本国内における昨今の電力事情や円高傾向により、生産・販売拠点の海外移転・進出を検討されている企業も多いことかと思います。海外拠点での安全活動の推進、事故防止への一助となれば幸いです。
以上
(2011年7月28日 三友新聞掲載記事を転載)