コンサルタントコラム

海外における事業中断リスク

所属
コンサルティング第二部 BCM第一グループ
役職名
マネジャー・上席コンサルタント
執筆者名
田代 邦幸 Kuniyuki Tashiro

2011年1月26日

日本で事業継続マネジメント(BCM)に取り組む企業が増加している中で、最近特に注目されているテーマの一つが、海外での事件・事故をトリガーとした事業中断リスクである。具体的には、自社の海外拠点における事業中断リスクや、自社に原材料や部品を供給しているメーカー(サプライヤー)の事業中断リスクへの備えである。特に近年は日本企業において、中国を中心とするアジア諸国のサプライヤーからの調達割合が増えたことにより、日本企業のサプライチェーンが広く海外に拡大しており、海外における災害や事故の発生が、決して対岸の火事では済まされなくなってきたという背景がある。

ところで日本国内においては、地震や新型インフルエンザを想定してBCMに取り組むケースが大半であるが、海外の企業や事業所を対象としてBCMに取り組む場合には、事業中断の原因として想定すべきリスクが何なのか、地域ごとに検討する必要がある。そこで、海外における事業中断リスクを知る資料の一例として、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体である「事業継続協会」(The Business Continuity Institute:略称BCI)による調査結果を紹介したい。

BCIが昨年10月に発表した『Supply Chain Resilience 2010』は、同年6月から9月にかけて、サプライチェーンのレジリエンス(復元力・回復力)をテーマとして、主にBCIの会員を対象として実施されたアンケート調査の結果であり、調査に対して35ヶ国から310名が回答している。回答数がさほど多くなく、またBCIの本拠地であるイギリスからの回答者が45%を占めるなどデータに偏りがあるため、統計データとして使用するには適さないかもしれないが、海外における事業中断リスクが多種多様である様子を見ることができる。

この調査の中で、回答者の所属する組織が過去12ヶ月間に経験した事業中断の事例を対象として、サプライチェーンが機能しなくなった原因を尋ねている設問がある。これに対する回答として、全体の集計結果でトップとなったのは「悪天候」(洪水やハリケーン等が含まれる)であった。以下、「ITおよび通信の機能停止」、「外注業者のサービス中断」、「交通網の途絶」、「従業員の病気」と続いている。なお、この調査は前年にも行われ、2009年10月に結果が発表されているが、この時は「新型インフルエンザ」と「取引先における財務上の破綻」が上位に入っていた。後者はリーマンショックの影響が大きかったものと思われる。

地域別に見てみると、アメリカでは1位こそ「悪天候」で全体と変わらないものの、ITおよび通信のトラブルが他の地域に比べて少ないためか、「外注業者のサービス中断」が2位となっている。また「安全・健康に関する事故」が3位に入っている。ちなみに前回の調査では「労使紛争」が3位となっていた。

発展途上国が多い地域では、さらに傾向が異なる。ASEAN諸国においては「市民の暴動や内戦」が3位、「環境事故」が4位に入っているし、中東およびアフリカでは、「ITおよび通信の機能停止」がトップとなっており、「外注業者のサービス中断」がこれに続いている。前回の調査では「エネルギー供給の途絶」がアフリカで3位となっていた。

このように、日本では発生する可能性が非常に低く、BCMの対象にされにくいような事象も、海外には実際に発生している。海外の事業所においてBCMに取り組む際には、その地域でどのような事象を想定すべきか、現地の事情をよく把握する必要があろう。

以上

(2011年1月20日 三友新聞掲載記事を転載)

田代 邦幸 Kuniyuki Tashiro
氏名
田代 邦幸 Kuniyuki Tashiro
役職
コンサルティング第二部 BCM第一グループ マネジャー・上席コンサルタント
専門領域
事業継続マネジメント、ITサービス継続性マネジメント