コンサルタントコラム

防災対策の進化と深化

所属
大阪支店
役職名
災害・経営リスクグループ長 上席コンサルタント
執筆者名
加藤 久雄 Hisao Kato

2010年10月15日

リスクマネジメント業務に携わって二十年余の筆者にとって、1990年代後半から2000年代初めにかけては、産業事故が多発した時期として記憶している。

この時期は、ごみ固形燃料発電所火災、製鉄会社タンク火災といった大規模火災や事故が毎年のように発生した時期であった。これらの事故には、取扱う物質の火災危険性をよく把握しないまま生産を行って火災となった事例や個々の作業プロセス軽視および作業効率追求のあまり重要な作業手順を省略したことが原因となった事例もあり、災害に至ってしまった現場実態がニュースで報道されるたびに、改めて危険源の排除やヒューマンエラー対策の重要性と困難さを認識したものであった。

熟練従業員の大量退職に伴う企業内の安全技術知識やノウハウの喪失が労働災害に結びついているとの指摘されたのもこの頃である。対策として、化学工業分野への導入が比較的進んでいたリスクアセスメントやPDCAによる管理手法の導入が進められ、事業場全般に安全の再構築を求めた「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」が公布されたのは1999年であった。

それまでの安全対策は、法令順守ベースに留まりがちで、災害が起こった後の原因分析と対策を中心とした後追いのやり方との印象であったが、全社的なマネジメントシステムの下で、リスクアセスメントや作業標準といったツールにより、システマチックな分析による危険源の排除や文書への落とし込みによるヒューマンエラー対策等の手法が取り入れられた。

筆者は、企業の製造現場に訪問しての防災レベルの診断や助言を業務としている。このところ実施した複数の製造業での診断で、次のような話を伺う機会があった。

  • 企業Aのお話「過去リスクアセスメントを当該製造部門によって実施し、数十件の想定事例を抽出していたが、今回再実施を行った。見直しにあたり、保守や電気部門等関連セクションも巻き込んで実施したところ、製造部門だけでは気づかなかった事例が新たに多数洗い出された。」
  • 企業Bのお話「作業標準の見直しを行う際、『何をどのように行うか』(How)のみではなく、『なぜそのように行うのか』(Why)の要素を記載している。個々の作業の理由・背景の理解によって、作業者が潜在的なリスクを認識し、表面的な知識に基づく勝手な作業工程の短縮や作業標準の逸脱がもたらすリスクを排除することを意図している。」

このような話から、進化した安全管理手法の定着に向けた取組が、さらに一歩進んだ段階に進展している、と感じられた。災害が人命や物的財産の損失のみならず、事業継続や供給責任といった企業の社会的責任を損なうものと認識されるようになった昨今において、真に効果の上がる防災対策を現場に根付かせようとする企業が増加しているように思う。安全対策を「知っている・形をつくった」段階から一歩進んで、経営から現場までが一体となって、「理解して自主的に実践している」レベルに深化していくことを期待したい。

以上

(2010年10月7日 三友新聞掲載記事を転載)

加藤 久雄 Hisao Kato
氏名
加藤 久雄 Hisao Kato
役職
災害・経営リスクグループ長 上席コンサルタント
専門領域
企業リスク・災害リスクマネジメント・プログラムの設計と運営

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