コンサルタントコラム

食品企業の安全対策~食品事故防止へ向けて~

所属
研究開発部
役職名
上席テクニカルアドバイザー
執筆者名
中原 純一郎 Junichiro Nakahara

2010年03月31日

近年TV、新聞紙上で取り上げられた食品に関する事件・事故は、コンプライアンスの欠如によって一般消費者の「食の安全」に対する不信感を増大させてきたとともに、企業経営へも多大なダメージを与えました。

食品関連企業では、細菌やウイルスによる食中毒、金属片・ガラス片・プラスチック片などの異物の混入、ポジティブリスト制度違反あるいは殺菌剤・洗浄剤等の化学物質の混入、商品表示義務違反等を原因とする食品事故の防止へ向けた生産活動が日々続けられており、生産・製造・加工・調理・輸送・販売などのフードチェーン全体の中でそれぞれが担当する分野での「食品の安全」に責任をもつことが求められています。経営トップの意思を表明した「食品安全方針」のもと全職員が同じ思いで業務に取り組むことが重要であり、その基盤の上に衛生管理・品質管理を徹底することが大切となります。

しかし自社内部での努力だけでは防ぎきれない事故への備えも考慮しておくことが必要です。「食品に対し意図的に毒物(化学物質等)を混入させ無差別に危害を加える食品テロに対する対応策(食品防御策)」も必要になってくると思われます。米国では2001年9月の世界同時多発テロと同時に食品テロ対策についての検討が開始され、「食品防御」を始めとする各種対応は日本より進んでいます。未だはっきりした原因は特定されておりませんが、2008年12月に発生した「冷凍ギョウザ事件」は記憶に新しいところです。こういった事故が発生した場合は、被害者は不特定多数の一般消費者となり対応の如何によってはその数も相当数に増えることも懸念されます。米国の食品テロへ取り組む体制なども参考に日本企業も食品防御への備えを強化する必要があります。食品テロに対して(1)テロ実行を阻止する対策や監督体制等の整備を含めた組織マネジメント、(2)従業員(関連事業者の従業員を含む)に関する管理、(3)原材料等の納入業者、郵便・宅配便の配達業者等の部外者に関する管理、(4)工場の周辺壁や有害物質の保管等の施設の管理、(5)保管原材料・資材や最終製品の管理を含めた運営管理といった観点からチェックリストを作成し自社の脆弱な点はどこかを知ることから始め、現時点で対応可能な脆弱箇所から順次対策を講じていくことが必要です。

食品事故や食品テロが発生した場合への対応としてトレーサビリティシステムを充実させておくことも重要になってきます。自社内の原材料受入れから製品加工・出荷に至るまでのトレーサビリティを確実に実施した上で、自社を中心として川上にある企業(原料・材料等の供給企業)あるいは川下にある企業(半製品の供給先企業、完成品の輸送・販売先企業等)のトレーサビリティもしっかり押さえておくことが必要です。トレーサビリティシステムを確立することにより、製品の回収を行う際の製品の絞込み、行き先の特定が容易になり迅速な回収が可能となります。

消費者の被害を最小限に押さえ、ブランドイメージの低下やフードチェーン全体の損失を最小限に押さえるためにも食品衛生管理の徹底やトレーサビリティーシステムさらには食品防御対策を有効に構築し万一の事故への備えを整備しておくことが必要です。

以上

(2010年3月18日 三友新聞掲載記事を転載)

中原 純一郎 Junichiro Nakahara
氏名
中原 純一郎 Junichiro Nakahara
役職
研究開発部 上席テクニカルアドバイザー
専門領域
食品企業の品質管理・衛生管理支援、食品安全マネジメントシステム構築支援

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