コンサルタントコラム

ソマリア海賊問題をリスクマネジメントの視点から考える

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
エネルギー開発リスク・製造業の火災リスク・プロジェクトファイナンス・海上輸送リスク
役職名
コンサルティング第二部 災害リスク第二チームリーダー 主席コンサルタント
執筆者名
星 誠 Makoto Hoshi

2009.11.10

ここ数年急激に悪化したソマリア沖の海賊問題は、自衛隊の派遣論議で海運業界以外にも広く認識されるようになりました。ソマリア沖の海賊による船舶占拠事案はIMB(国際海事局)のデータでは 2007年から目立つようになり2008年には111件と急増し、各国の艦艇の派遣にもかかわらず2009年9月時点で114件と悪化傾向が続いています。 占拠した船舶の解放と引き換えに金品を要求する形態がある意味でビジネス化したことにより、海賊人口が増加し、また獲得した金品でさらに武器や電子装備を充実させるなどの悪循環に陥っているとされます。 問題のアデン湾はアジアとヨーロッパをつなぐスエズ運河への通り道で、まぎれも無い世界の物流の大動脈であるため国連でも大きな問題となり西欧諸国のみならず日本・韓国・インドなども海賊抑止のために艦艇を派遣する事態になっています。

本稿では、この問題を船舶運航者の視点でリスクマネジメントのフレームワークを使って考えてみます。ソマリア沖の海賊問題は海賊による船舶の長期間の占拠という特殊リスクですが、リスクの発見・評価・回避・予防(低減)・移転(転嫁)といったリスクマネジメントの基本的なフレームワークによって適切な対応が検討できることがわかります。海運業界特有の事案ですが、グローバルな事業展開をする上で避けて通れない治安リスクを考える上で参考になるのではないでしょうか。

数年前から状況の着実な悪化は専門紙の報道やIMBの報告などで、「知る人ぞ知る」ものでしたし、また各国艦艇の派遣開始以降、ハイジャックを阻止できた事件も多くあるものの、依然、襲撃事案は頻発しており抜本的な解決には程遠い状態です(リスクの発見・評価は一度すれば済むものでなく継続的に行う必要性があります)。
ソマリア沖の状況の悪化を受け、海運会社の中には傭船市況の低迷、燃料油の下落も踏まえ、スエズ運河・アデン湾を回避し喜望峰回りの航路を選択する会社も出てきました(=リスクの回避)。
当該水域を航行する船舶の多くは、各国艦艇の被護衛船団への参加、海賊襲撃時の対応策の船員への教育、個別のセキュリティ会社との契約など海賊対策を取っています(=リスクの予防・低減)。

また当該水域を航行するかどうかの判断に当たっては、万一海賊に占拠された場合の物的損傷、逸失利益、その他の臨時の支出を傭船者(航海指示者)への契約に転嫁できるかどうかも重要な要素になります(=リスクの移転)。 さらに最終的に船舶に残ったリスクのうち保険化できる事項の検討がなされることになります(=リスクの転嫁)。

カントリーリスク、治安リスクなど通常の合法的なオペレーションを前提とすればそもそも発生しえないリスクであってもリスクマネジャーは対処が求められます。数年前にはほとんど聞かれなかった海賊による船舶占拠事案が急増したり、問題の解決へ向けた期待の大きかった各国艦艇派遣後も事件が頻発し、抜本的解決につながっていないなど、問題はきわめて流動的で、定期的にリスク評価や対応を見直す必要があります。しかし改めて考えてみれば、カントリーリスク、治安リスクといった性質のリスクはひとつの事変をきっかけに急変することが珍しくありません。その呼び名は何であれリスクに立ち向かう管理者はリスクに対する感度を鋭くし、状況の変動に応じた分析の見直しをすることで常に適切な対応策をとることが求められていることをソマリアの海賊事案は示していると言えるのではないでしょうか。

以上

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