コンサルタントコラム

リスク感性を取り戻そう!

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
自動車安全運転管理支援/自動車事故防止対策
役職名
コンサルティング第一部 自動車SCM室
自動車RMチームリーダー 上席コンサルタント
執筆者名
寺西 朗 Akira Teranishi

2008.9.2

先日、こんな光景を見た。
横断歩道のところで、信号待ちしていた紳士、車道に一歩下りたところで携帯を手に話していた。と、その目の前を車両が走りすぎ、紳士はあわてて一歩後退し、歩道に上がった。
携帯での会話に気をとられていたのか、それとも、車が避けてくれると思っていたのか・・
このようなシーンは、きっと多くの方が目にしたことがあると思う。
たとえば、同じような信号待ちのシーンでも、自転車の場合、「前輪を車道に出して待っている・・・」、あるいは「夜間、自転車を無灯火で携帯のメールを見ながら・・・」、歩行者も「歩行者用信号が青の点滅のときに横断歩道に駆け込み、横断歩道に入ってしまうと信号が赤に変わっても打って変わって悠然と横断していく・・」。歩行者や自転車ばかりではない。自動車の側も、「信号が変わるのを見越してまだ赤でも発進する・・」。
「信号が変わったら少しでも早く行きたい」のかもしれないし、「自分は周りが見えている」、「ライトを点けるとペダルが重たくなる」、「歩行者は優先だ!」などそれぞれなりに理由を持っているのだろう。
しかし、傍から見ればいずれも危険極まりない行為である。このような事例は枚挙に暇がない。
このような危険なことが普通にできてしまうのは、なぜだろう。危険を感じ取る、あるいは危険な事態を予想する力、危険に対する感受性とでも言おうか、そういった力が落ちているのではないだろうか。

この力は、本来は、生きていくうえでとても重要な力のはずである。(少し言い過ぎかもしれないが)人間が自然の中で生きていた時代には、様々な危険の中で、対応をひとつ間違えば命にかかわることが満ち溢れていただろう。しかし、今は様々なルールや法制度などで安全な(はずの)社会生活を営むことができ、少しくらいは疎かにしてもあまり問題なく過ごせてしまう、ということがあるのかもしれない。車道に一歩出ていても、車がよけてくれる・・
しかし、もともと、モラルやルール(さらに言うならば法)は人々が安全に社会生活を営むために作られてきたものであり、それを侵すということは、安全な状態ではなくなるということだ。よく、「いつもは交差道路を走行してくる車はないから一時停止しなくても大丈夫だと思った」「いつも車道で待っていても大丈夫だった」けれど「今回は運が悪かった」というが、そうではなく「いつもは運よく事故にならずに済んでいた」というべきだろう。

起こりうる危険を想像する、そういう感性を取り戻すにはどうしたらよいのだろう。
ひとつには、まず、子供たちに大人たちが手本を見せることだと思う。
きちんと信号を守る、横断歩道を渡る時でも、左右の安全確認をする、など、親だけでなく、子供たちの周りにいる大人たちが普段から手本を示すことで、初めて子供たちの基本動作として身についていくのではないか。その上で、なぜそうするのか、どんなことが起こりうるのかを伝えていくことで、起こりうる危険を想像する力がついていく。
また、大人には労災や交通事故防止のための施策のひとつとして行われているKYT(危険予測/危険予知トレーニング)がある。場面のなかで、何が起こりうるのか、何に注意をするのか見つけ対応のしかたを考えることで、危険感受性、考える力を高めていくことができる。昨今は映像の活用も進んでおり、具体的な事例を基に行うこともできるようになってきている。
こういった事柄も含めて、社会の様々な分野で、また、様々な立場の人々が地道な努力を続けていくことが求められているのではないか。

交通事故による死者数はこの数年減少が続いており、このペースで減少していけば、平成22年までの事故後24時間以内の死者数を5,500人以下、死傷者数を100万人以下に、という第8次交通安全基本計画の当面の目標は達成できそうではある。
しかし、警察庁のまとめでは昨年の交通事故による死者数は5,744人、負傷者数は103万人を超えている。同基本計画の副題にも「交通事故のない社会を目指して」とあるとおり死傷者をなくすことが究極の目標であり、その目標はまだまだ遠い。
社会全体での、そして、一人ひとりの努力の積み重ねが必要であるし、自動車事故の防止に携わるものとして、ささやかではあるが、その中で力を尽くしていきたいと考えている。

以上

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