コンサルタントコラム

地震多発国・中国

役職名
災害リスク部 主席コンサルタント
執筆者名
東 隆宏 Takahiro Azuma

今年のゴールデンウィークに中国を旅行した日本人は、8万人を超えたと言われている。距離的にも文化的にも、そしてここ十数年は経済面でも関係が緊密化し、経済人のみならず一般の日本人の中国への関心と知識レベルは高くなっている。一方で一衣帯水の心象が災いし、国家観、歴史観などの誤解、行き違いから国民感情が強く反発し合い、相互交流が民間レベルまで大きく冷え込んだ歴史を重ねてきた。

さて、中国に対するその種誤解とは趣が異なるが、「中国は地震の少ない国」であると認識している日本人は極めて多い。長年の中国滞在中に、地震による被災は勿論、「おや!」と感じる軽い地震の揺れさえ経験したことがないという合弁企業の日本人駐在者が殆どであり、まして短期の旅行者が中国旅行中に地震を経験することは殆どない。事実、上海の高架都市高速道路を支える橋脚の細さは、阪神大震災で横転した阪神高速道路の実像を目の当たりにした日本人にとっては、まるでマッチ棒のように見えるし、こんな耐震構造を容認している中国を、地震超大国の日本人が「地震の少ない国」と認識するのは当然である。しかし、ここでは、中国が世界的にも地震多発国であることを裏付ける事実を、いくつかご紹介したい。

中国は国土の大半が一枚のユーラシアプレートに載っている。そのため、インドヒマラヤプレートがユーラシアプレートにもぐりこむチベットや雲南地方などを除くと、殆どの地域の地震はプレート間ではなく地殻内地震となる。中国の地震の特徴は、以下の4点があげられる。

[1]多発性: 中国の国土面積は、全世界陸地の14分の1にすぎないが、一方、陸上地震の発生数では全世界の直下型地震件数の3分の1が中国国内で発生している。中国ではM8.0以上の巨大地震は10~15年に1回、M7.0~7.9の大地震は3年に2回、M6.0~6.9の地震は1年に2回の割合で発生している。
[2]大規模性: 20世紀に世界で起こった3回の巨大地震(M8.5クラス)の内、2回は中国で発生している。( [1]1920年12月16日 寧夏回族自治区の地震(M8.6)、[2]1950年8月15日 チベット自治区の地震(M8.6)。※ 他の1件は 1960年5月22日 チリ南部地震(M8.5) )
[3]広域: 中国各地の広範な省、直轄市でM5 以上の地震が発生しており、国土の41%、都市の50%、人口100万人以上の中・大都市の70%で震度7(中国は12震階をとっており、日本の震度階の震度4程度に相当)以上の地震が観測されている。
[4]直下型: 西南部のチベットや雲南省、中朝露国境地帯の吉林省、黒龍江省などでは地下400~500kmを震源とするプレート型地震が発生しているが、それ以外の殆どの地域では深さ10~20km程度の地殻内地震である。

中国では地震活動の主要な分布を5地区(台湾、西南、西北、華北、東南地区)に区分整理している。「華北地区」は首都北京や天津、大連など沿海主要都市を内包もしくは隣接する人口密集度・政治経済への影響度の極めて高い地域であるにもかかわらず、西南地区(チベット高原地区)に次いで地震の強度、発生頻度の高い地区とされており、統計資料でも過去にM8クラスの地震が5回、M7~7.9クラス地震が18回発生している。1976年7月に発生し死者24万人を出した唐山地震も華北地区の4地震帯の1つ「華北平原地震帯」が揺れたものであり、「中国の地震は辺境地区が主」との認識を覆す事実である。

毎月のようにどこかで地震被害発生が報道され、いつ起こってもおかしくないといわれる東海地震を足元に抱える日本国民にとって、濁流に飲まれる村落を守る為果敢に堤防決壊阻止に取り組む人民解放軍兵士の映像報道などで植え付けられた「洪水リスクの国・中国」の印象に比し、中国の地震リスクの印象は薄くならざるを得ないが、上述の中国の地震履歴や、災害情報の公開に対する姿勢の相違など中国の国情を勘案すれば、地震リスクもまた念頭においておかなければならないリスクであろう。

以上

氏名
東 隆宏 Takahiro Azuma
役職
災害リスク部 主席コンサルタント
専門領域
企業防災調査(主として中国を担当)