コンサルタントコラム

供給者責任を脅かす事業中断リスク

役職名
災害リスク部 上席コンサルタント
執筆者名
清水 純康 Shimizu Sumiyasu

事業中断に至る災害・事故の発生は、生産高・利益等の減少など企業財務へ大きな影響をもたらすことに加え、供給者責任を問われ生産復旧後のマーケットシェアダウンやブランドイメージの低下など安定経営への大きな障害となる。
とくに、昨今の会計制度の変更や株主意識の高まりなどにより、キャッシュフローへの影響の大きい事業中断への対応は経営課題としても重要性が高まりつつある。

製造業における経営効率化が進展する中、保有する設備・資産が生み出す付加価値に注目が集まり、新設設備の投資圧縮・既存生産設備の生産性向上、さらにリードタイムに関わる仕掛品・在庫のあり方も見直されている。
工程管理・生産管理上発生する不測の事態への対処法として、従来は事業継続・生産維持の観点からは既存設備の生産能力引き上げや手元在庫の活用により対応することが一般的であったが、生産性向上に伴うジャストインタイム供給などの普及により、事業中断に関するリスクバッファーが「充分なストック(設備・在庫の確保)」から「フローの安定(サプライチェーンの冗長性)」へ移転しつつある。
例えば、「大規模製造拠点に生産集約し、SCMにより在庫・仕掛品を削減、24時間操業体制により生産性・資産効率を向上させる」との方針の下で製造される製品の場合、罹災時に他の製造拠点の生産性を上げて対応する、残業・休日出勤で生産を確保するなど、従来、供給者責任を果たすために対策としていた選択肢の採用は困難となる。
このような事業方針の採用は、資本回転率・回収率の向上と引き換えに罹災時の生産低下の影響を大きく受けるリスクを保有することになり、ストックの防護に加えて生産フローの安定を視野に入れたリスク対策が求められるようになってきた。

リスク対策は、事業中断に至る事態を発生させないこと(予防対策)に加え、万が一そうした事態が発生した場合であっても被害を局限化させる適切な緊急事対策(防護対策)、生産やシェア等に与える影響を最小限に留めること(復旧対策)の組み合わせで構成される。さらにリスク転嫁費用を含め、費用対効果を見据えた防災予算(リスクマネジメントコスト)の配分の最適化が災害リスクマネジメントの主要テーマとなる。

費用対効果の観点からリスク対策を行うにあたり、直接損害である財物の被害想定は多く行われている一方、間接損害(波及損害)である事業中断の被害想定を行っている日本企業は非常に少ないといえる。これは、「工場の火災に備えて火災保険は掛けているが、費用保険は掛けていない」企業が多いことからも伺える。火災が起こるかもしれないからリスク転嫁する(火災保険を付ける)判断を下したのにもかかわらず、同時に蒙る損害である事業中断被害についてはリスク転嫁せず(費用保険を付けず)にリスク保有していることになる。
キャッシュフローに照らしたトレードオフの結果であれば経営判断として受け入れられるが、欧米をはじめ海外企業の多くが財物・費用損害を合算した額をリスク転嫁の基礎数字としていることと対象的である。
これは、施設管理業務の一環として財物の被害想定は資産台帳や投資計画などから把握している・判っているが、事業中断に関する被害額は生産管理業務として把握することが求められる機会が少ないことが事由の一つと考えられる。

事業中断被害額の想定は、対象とする製品カテゴリーの生産フローを整理し、災害リスク(火災・地震・水災・原材料の供給停止など)に伴う事業中断シナリオに基づき発生損失を推定していくが、財物の損害推定と異なる点として当該製品の生産計画・製造コストなど変動条件を反映させ適宜見直していくことが挙げられる。
具体的には、事業中断すると得ることができない「喪失利益」、事業中断しても出費せざるを得ない「固定費」、および代替生産など供給者責任を果たすための「追加費用」の合計を事業中断損害とする。

  • 事業中断損害 = 喪失利益 + 流出固定費 + 追加費用

このうち、喪失利益と流出固定費は製造原価明細など財務情報から費用分類し、罹災工程の製品の利益率および固定費率に、罹災による停止期間を乗じて算出できるが、追加費用は具体的な復旧計画が策定されていない場合、その算出は困難である。
代替生産・外注生産・OEM対応など、早期復旧にどの程度の期間と費用が必要になるのかを製造部門や生産管理部門ではある程度判っていても、経営の課題として情報共有できている企業は未だに少ない。

昨今、経営ツールとしてのBCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)が注目されているが、その根幹を成すのは的確なBIA(Business Impact Analysis:事業中断被害想定)であり、供給者責任に照らし保有するリスクを客観的に知るところから安定経営のPDCAサイクルが始まると言えよう。

以上

氏名
清水 純康 Shimizu Sumiyasu
役職
災害リスク部 上席コンサルタント
専門領域
企業リスク、災害リスクマネジメント・プログラムの設計と運営