コンサルタントコラム

不安全につける薬はあるか

役職名
災害リスク部 主席コンサルタント
執筆者名
東 隆宏 Takahiro Azuma

燃焼の3要素をご存知だろうか?このホームページをご覧の方にそんな質問をしたら「無礼者!」とお叱りを受けるかもしれない。
むかし、むかし、理科の時間に習ったとおり、燃焼の3要素は

  1. 可燃性物質(燃えるもの)
  2. 熱エネルギー(点火源)
  3. 酸素

の3つを指し、燃焼の為にはこれら3要素が同一の場所に、又、同一のタイミングで揃っていることが必要である。
身近な危険物の代表であるガソリンもその液体内でスパーク発生装置を使用して電気火花を発生させても、空気の存在しない液体内という環境では燃焼や爆発は発生しない。
一方、運悪く3要素が鉢合わせして燃焼が発生した場合も、燃焼熱の発生が継続し、可燃物の化学反応を連鎖させることができなければ花火のような一瞬の光を放って燃焼は収束する。
この化学反応の連鎖を加えて、燃焼には4要素ありと言われる所以である。

火災防止・消火の仕事はこの燃焼の3+1要素を逆手にとって、燃焼の発生をいかに防止するか、燃焼の継続をいかに封じ込めるかの取り組みであり、手法は「3要素を鉢合わせさせない」ことであり極めて明快である。
燃焼の3要素のうち酸素は我々の生活空間の空気中に21%も存在していて、これを取り除いたり薄めたりしては我々も生きていけない。そこで空気の排除は諦めて、残る2要素の内、一つを取り除くか遠ざける事を考えることになる。

一般家庭と異なり、工場には製品や原材料といった引火性の強い物質や大量の可燃物が存在する。危険物や可燃物の少ない工場でも大きな熱源が存在する。我々の防災提案活動は、これらの3要素を可能な限り、時間的、空間的に遠ざける為の工夫や提言を提供する活動である。

そんな仕事で訪問した工場現場で、「現場のプロ」達が3要素がニアミスしている不安全状態を平然と看過している事例を見かけることがある。仕事の効率や経済上の事情から不安全を承知で目をつぶっているケースや、「馴れ」から不安全を意識しなくなっているもの、知識や認識、事故の実体験不足から危険を危険と認識していないケースも近年増加しているようだ。こんな現場では改善を勧めるアドバイスに対して『社内規定には禁止する決まりはない』『消防法上問題はないはずだ』という答えが往々にして返ってくる。
消防法や社内規定に禁止が明示されているか否かではなく、「3要素を鉢合わせさせない為に必要かどうか」という判断基準を失いかけているのではと首をかしげさせられることもある。
機械化により現場からの距離が遠くなるほど、操作ボタンの向こうで起こっている事象への実体験や臨場感を失い、マニュアルや規定に依存する度合いは拡大する。規定や法律は万能ではないし想定内・外のあらゆる事象に備えて条項を定めているわけでもない。これを遵守することが即、自らの安全を保証するものでもない。

近年多発した産業事故の多くは、最新技術のブラックボックスの中で発生したというよりむしろヒューマンエラーや、効率追求で手薄となった管理体制、連絡・連携の不備といった古典的な原因から発生している。事故体験や現場感の不足が事故防止への取り組みや事故発生時の判断の誤りに繋がっているのではないかと指摘されている。
又、失敗知識データベースに見られるような事故・失敗の再発防止を目的とした情報の公開・共有の動きもスタートしている。
特効薬ではないが間違いなく安全のための滋養強壮剤となる取り組みだろう。
長年お客様の事故と向き合ってきた我々も、過去の事故例とその教訓を失敗防止の為の貴重な教材として社会にフィードバックすることが益々重要になってきたようだ。

以上

氏名
東 隆宏 Takahiro Azuma
役職
災害リスク部 主席コンサルタント
専門領域
企業防災調査(主に中国を担当)