コンサルタントコラム

製造物責任(PL)法施行10年目に思うこと

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
製造物責任(PL)、製品安全、消費者保護、雇用・労働・人権問題、CSR(企業の社会的責任)、福祉介護その他の社会制度・法律分野等
役職名
社会・法務リスク部 主任研究員
執筆者名
田渕 公朗 Kimiaki Tabuchi

2008.4.1

わが国に、製造物責任(PL)法が施行されたのは1995年7月である。欠陥責任(無過失責任)法理の導入により、わが国企業も、米国のような濫訴ともいえる厳しい環境に晒されるのでないかとの懸念から、当時、企業の多くが、(1)PLに関する専門組織を新設し、(2)取引先等とのPLに関する責任分担契約の見直し・整備を行い、(3)PL保険の加入・見直しなどを行った。

PL法施行後10年目の今日、PLに関する訴訟提起件数は、大幅に増加しているとはいえない。これには様々な理由が考えられる。勿論、メーカー側の製品安全に対する努力もあろうが、日本の一般市民にとって、製品事故を訴訟という手段で解決していくには、時間やコスト、手続き面さらには精神的な負担を考えると、まだまだハードルが高いということか。また、PL法施行当時には溢れていたPLに関する情報も、その後は、かなり少なくなった。

しかし、これらのことは、PLに関するリスクが小さいことを意味しない。むしろ、製品事故やその報道を通して見える企業の消費者軽視の姿勢を赦さないというのが最近の社会の情勢であることを考えると、リスクは大きくなっていると捉えるべきであろう。にもかかわらず、ここ数年の製品事故において明らかになった事故発生の背景や事故後の対応を見ると、法施行当時のPLに関する取組みや対策が本当に実効的なものとして企業組織に浸透していたか疑わしい事例が散見される。このことは、大企業や著名ブランドでさえも例外ではない。

米国では、集団訴訟の深刻化などが指摘される反面、行き過ぎたPL訴訟を抑制しようとする立法、司法等各方面からの動きがある。欧州においては、広義のリコールに関する行政への通知義務などを含む"改正EU製品安全指令"の加盟国における立法化が進んでいる。中国においては、消費者保護法制や人身事故における賠償額に関する統一的な解釈が出されるなど、PLに関連する法制度が急速に整いつつある。

PLや製品安全に関しては、様々なレベルで企業のお手伝いをさせていただいているが、常に、日本のみならずワールドワイドで、PLを取巻く新しいリスク環境に添った提案を心がける一方で、過去の取組みが形骸化していないか、組織運営やルールが正しく機能しているか、機能するような指揮命令系統ができているかといった点にも気を配っている。しっかりした土台がなければ、対策の実効性は上がらないからである。

以上

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